俺たちは人間ではない。必要な行動が不要なものもある。
 その一つ、睡眠。眠らなくても問題無く行動できる。
 疲労物質による体機能への影響が無いも同然、よって必然。
 ただ別に出来ないわけではなく、夜に暇とあれば行うことも可能。
 但し眠りは眠り、外部に対する反応が出来るか否かは自己責任。

 というわけで、つい眠りこけてしまった俺は捕まってしまったのである。
 …CWのナンバー1が実に面目無いが、こういうこともある…。

 気が付くと石畳の上、薄暗く黴臭い部屋にうつ伏せに寝かされていた。
 身動きが取れない。後ろ手に手錠をかけられ腕・胴体と脚を縛られ、しかも首を固定されているようだ。
 少し離れたところから話し声が聞こえる。
 「くそっ、どうなってんだこりゃ」
 「何をしてる、さっさと原因を見つけろ」
 「そうは言いますけど、この剣の魔法妙でして」
 …俺の剣が、三振りとも無い。まあ、それはそうか。

 この世界に来て俺も久しい。例によって真実を偽るものたちを強力に捻り潰すことを続けているため、名も知れ渡ってきている。
 特にこの世界では巨大な犯罪組織が暗躍を続けており、一部は俺によって叩かれている。当然目の敵にされるというわけだ。
 俺自身の知名度と共に、俺の振るう三つの剣も同時に知れ渡っているようだ。三本も剣を身に付けている時点で目立つしな…
 一つはカオスソード。現在CWでは量産可能な両刃剣だ。俺の持っている剣の中では一番弱いのだが、通常人間界に存在する、多少の伝説クラスの剣と比較しても負けない切れ味と強度を持つ。
 二つ目はシャイニングブレード。日本刀のような反りの片刃剣で、CW内でも特殊な金属で作られている。あらゆる魔法と適合し、あらゆる物を斬れる、形のある物質的には最強の剣。
 そして最後にスペクトラルブレード。柄だけで刀身は実体を持たない波動、使用者の意思次第でかなりどうにでもできる剣だ…あまりに融通が利き過ぎる上に恐ろしく強力な為、滅多に抜くことは無い。ちなみにどこかで聞いたことのある名前かも知れないが、多分関係無い。

 どうやら連中は俺の処分より先に剣を奪うつもりのようだが、土台無理な話だ。
 CWの武器は強力極まるが故、一般人では持て余してしまうものの使われて危険なことに変わりは無い。そのため個別にセキュリティをかけており、それぞれの所有者以外が手にしようとしても電撃が走ったりしてそもそも持てないようになっている。俺ですらケルンやディルアス、ライルの専用武器は勝手に使うことは出来ない。
 所有者が“許可”した者なら一時的に使用できるが、それ以外では触れることすら不可能。よって奪われてもさほどの危険は無いのである。
 「いいからさっさと解除しろ。こんなもので部下を二人も使い物にならなくしやがって」
 「(ヒィ…気をつけないと俺も真っ黒コゲだ)」
 …身に余るということを理解してなければ、こうなるわけだ。

 しばしの後。
 「…貴様、分かってるだろうな」
 威張っていた方の男が気づいたのか、俺に言葉を寄越した。
 「俺の圧倒的優位かな」
 「……? もう狂ったか」
 普通ならそういう反応だろう。
 何故なら俺は今、思い切りギロチン台に掛けられているし。先ほど首が固定されていると言ったのはこういうことだ。
 「随分と組織をやってくれたみたいだが、こうなってはお終いか」
 「全然。寝てただけでそれも無い」
 ガツン。
 返事の返事は蹴り一発だった。
 「まだ減らず口を叩くならすぐにでも分からせてやる。狂っていようがな」
 「頑張れ」
 男のこめかみが引き攣る。自分としては何としても剣の使用法を聞き出したい相手がこうでは、殺るも殺らないも頭に来るのだろうからな。
 分かっているが、こういう返事をするのはやめられないというか、既に自分の中ではそれ以外に言葉を紡ぐことが出来なくなりかかっている…
 未だ幾つかの性質を持つ魔力をシャイニングブレードとスペクトラルブレードに苦悩しながらかけ続けている手下の魔術師は焦りの表情が丸出しだ。彼程度ではとても解析など不可能。
 その表情を見たが、次の瞬間男はニヤリと俺に笑みを見せる。ふと男の腰を見ると、カオスソードはそこにあった。
 「こいつだけでも、まあいいだろう」
 カオスソードは量産品故にセキュリティを掛けていない。
 どうやら男はカオスソード一本で十分と取ったらしい。この程度の奴らなら、確かにそうだろう。
 公開処刑というわけでもなし、男の手が無造作に伸びてギロチンの刃を支える紐を断ち切った。

 ガッ!
 後ろ首が痛い。
 「……っ!!?」
 落下して俺の首を飛ばし、盛大に血の雨を降らすかと思われたギロチンの刃は、しかし頸部に一ミリとて食い込むことなく止まってしまった。
 …こんな程度の重さと鋭さの刃で、俺の首を飛ばそうなど。
 全身に力を込める。胴体と脚の縛めがブチブチと千切れ、手錠がパキンと乾いた音を立てて壊れた。
 そして…
 「…な、な、な、な、な」
 「え… 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!?」
                             ......
 足の裏を床に付け、そのまま俺は腰の力で、立ち上がった。
 
 男は舌打ちをしてカオスソードを抜いた。
 実際並みの剣より遥かに軽いため、振り回す分には使い勝手もいいものだろう。
 だが、それで武器の無い俺に勝てる気なら間違いだ。
 …この太刀筋、どうやら胴を突いてくるつもりか。
 なかなか悪くないセンス、剣の特徴別の使い方を把握しているらしい。
 残念ながら、ことCWに於けるそのあたりのルールは全く、異なる…
 素早くステップを切り返し、体の向きを変えてかわす。
 再度飛んでくる剣線。
 無造作に振り向いた俺が、勝負の決め手を担った。

 首にくくりつけたままのギロチン台が男の側頭部に思い切りヒットしたからだ。

 剣を取り返し、小さなアジトを破壊して俺は再び旅立った。
 先の魔術師も気がついたときは気絶していた。どうやら円運動で外側に向かう力がかかったギロチンの刃が吹っ飛んでいき、命中したらしい。刃のついてない方だったとは言え、並みの人間が直撃して無事に済む重さと速さでは無かっただろう。俺は無事だったけど。
 新入りだったようで、まだ他人の真実を侵すことはほぼ皆無の彼は一応助けておいた。

 時刻はまだ夜明け近く。冷たいそよ風が吹く薄暗い大地を踏みしめて、次の目的を果たすため俺は歩く。


同じテーマで各人を書くと、結構いけそうです。

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