そのサイトへ接続する。
 否、そのサイトをアーカイヴしてあるサイトへ繋ぐ、と言った方が適切なんだろうね。
 重いレスポンスを我慢しつつ、モニタに表示された文字を追う俺の片方しか無い目。
 …俺が動きに行けなかった方では、こいつも俺みたいにされたんだなあ。
 普段からこうなってしまうことは知ってはいたが、改めてカタチとして見てみると心の痛みがつらい。
 俺が見ているサイトは、俺が出て行ったために生まれた。因果律が分岐して「俺が出て行ってない」、つまり元のままの現実になった世界。
 何があっても全てを完璧に白日の下に晒すことなど出来やしない。それでもそういう現実が別に出来ているならば、嘘で塗り固められそれが偽りだと知られもせず続いていく現実だけでなく、真実を導き出して正しく一つの物事を終わらせてゆける現実、それらが半々になる。どんな結果に終わるにせよ、真実が通った歴史と虚偽が彩る歴史がフィフティー・フィフティーになるんだ、嘘の世界が百パーセントじゃなくなるんだ。
 俺はそれでもいいと思ったからこの仕事を続けている。
 だけど…もっとこの世界を、こいつらを救ってもっと不幸な歴史を減らしたい。酷すぎる。陰惨すぎる。
 ひとはここまでクルえるのか。
 ひとはここまでコワれれるのか。
 ひとはここまで… … … … 

 俺はPCの電源を落とし、次の仕事へ行くことにした。



 あまりにひどすぎるため、単なる人間同士の争いの世界に赴くというのに使用制限を完全に外された脳波操作能力。
 使わなければ本気でどうにもならない奴がいた。
 俺が適応できるように最低限の改変を施したその世界に下り立った時、事態は既に動いていた。
 学校での聞き込みと脳波からの探知はさほど功を奏さなかった。分かったのは以前ここでひどいいじめがあって、いじめられていたのは変態的な性癖を持っていた少年、その妹と交際していた不良が主にやっていたこと。その不良は少年に復讐で事故に見せかけ殺されたらしいということ。何人かの生徒が行方不明であること。今でも校内ではいじめが絶えないこと。最初にいじめられていた少年は自殺したということ。
 早速名簿を調べて何人かの関係者の情報を引き出す。もちろん教師方の脳波をいじって俺が職員室で堂々と漁り物をしているように思えないようにして。

 最初の行動は夜。住所を調べ上げて各々方の家に秘密の針金を使って忍び込み、周囲の人の脳波を気にしつつ眠っている当人に直接脳波で語り合わさせてもらう。時には強制的に知っている事を引き出させてもらうこともあった。人道的にはよろしくないけど、これも全ての真実を突き止めて君たちを絶望の未来から救い上げるためなんだ。勘弁してちょうだい。
 ここで驚いたのは、さきほどのいじめの被害者の少年の死とほぼ同時にその妹が引き篭もり化した理由。…人格が分裂して、まるで少年のようになっていたことだ。肝心の元の人格は深く眠っており、無理に記憶を引き出そうとすると廃人化してしまう可能性があったので断念した。今、彼女いや彼が問題の中心にいることは大体理解できたが。
 同居している母親の記憶から少年が生きて入院していることも知ることができた。こちらも調べなくてはならないが、危急では無い為後のことになりそうだな。今は明日にでも行動しなければならないことがある。…それにしても別の記憶だけど…「母は強し」、そうつくづく思えた。
 どうやら問題の核心はWeb上にあることが分かった。これは少し面倒だなあ…何故なら彼らだけの記憶では分からない要素が多く、これを調べるのは魔力で強化された情報追跡能力を持つCWにあるPCだけなので一度帰還しなくてはいけない。もっとも面倒なだけなので仕方なく調査に戻った。
 追う。追う。…これはひどい…プロキシを使った自作自演の嵐だ。偽りを解決せねばならないと思う身としては不愉快極まりない。
 そして…似た世界のもう少し先の時間軸で有名になるネット上の殺人依頼。これは間違い無くヤケを起こしてる…ヤバい。

 次の日の「その」場所で、俺は刃物を持った太った男を取り押さえた。
 こいつはここで初めて事件に関与することになるらしいが…元々こいつはこいつで問題のある性格のようだ。絶えず情報を集め続けないと。
 次に行くのは自称ネットの帝王を語る別の少年の家。どうやら中学生のようだが…済まないが、この話で終わらせてもらう。本来の現実なら、「彼」が言う事なんだけど。
 …そして「彼女」に伝えるという俺の言葉を聞いて彼は青ざめた。見苦しいほどにうろたえて焦ってPCのキーボードを操作する指も覚束ない。
 本来なら五分もあれば終わる削除作業が三十分以上かかっていた。

 突然のことに関係者は驚いたようだが、その隙に俺は行動できた。
 まず、本来なら殺されていた教師のある記憶と感情を完全にフォーマット。これを「彼」に解決させても、絶対悔恨が残って後でなんか起こる。この世界の因果律は本気で粘着質すぎるから。
 次にその事実を「彼」に「理解させ」、さらに少しずつ眠っている本来の人格に刺激を与えて覚醒を促す。
 そして…残る学校の陰に隠れた部分を全て曝け出させた。いじめは全て開けっぴろげになり、PTAが騒ぎ出し教育委員会に飛び火し、今やこの県の教育機関関係は大パニック。それも少しずつ沈静化させるために頭が熱くなりすぎてる奴等をまとめてクールダウンさせて……
 …疲れた…。
 とりあえずゆっくりした作業でもしよう。いじめをしていた連中への制裁は後でもいい。俺は少年が入院している病院へと向かった。

 ……………いや、父親もかよっ!
 少しはのんびりできるかと思ったのに、どうやらこの事件はさらに一つ上の世代まで及ぶらしい。
 少年の方まで人格が妹に入れ替わっていたのは、妹(つまり「彼」)の記憶を視たときからそうなるかもと思っていたので気に掛からなかったけど…その状態で入院して危機的状況を脱せたのは医者である父親の力か。
 しかしこの記憶…どうやらあの母親も普通では無いのか…
 何日か、ここにも通うことになりそうだ。時間をかけてトラウマを取っていかないといけない。

 いじめをする馬鹿でDQNな不良共に相応の罰を与えて、残りは二つ。
 最初の少年とその家族、そのトラウマを消し、原因を消さねば。
 完全な根底にある原因は消すのは物理的なもののため無理。できることまでやっていくしかない。

 ――そして。
 二週間ほどのトラウマ除去と精神復活。そしてさらに一ヶ月。
 両親の一部記憶の消去、改竄。
 結構長くかかってしまった。脳波操作ができなかったらこんな仕事無理だよ…
 よもや問題の家族の両親が兄妹であるとは。
 そしてまたその息子も歪んだ愛情を妹にぶつけていたとは。
 その妹も、そんな家庭で生まれ育ったためか魔性の魅力を自覚も無しに持ってしまい、周囲を巻き込んでいったのか。
 なんて……………なんて現実だろう。
 見慣れてると思ったのに、この仕事に身を投じただけでも重いと感じていたのに。



 …モニタに少しずつ表示される文字の列。
 …全てを読み終わった後、俺は初めて、精神から来る不快さで吐いた。


例の母親毒殺未遂事件関連で、またアレを見る日が来ようとは。一部見れなかったので想像込みですが。
鯖落ち長すぎです。コメント機能マダー?

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