滞在先の家に着く。母親の実家、祖父母の家だが。
 俺はほんの二歳ぐらいまでは横浜に住んでいたらしく、この家には頻繁に来ていたとか。北海道に引っ越した後も中学生ぐらいまでは長期休暇の度に来ていた。そのため俺からすればこの家は第二の故郷と言っても問題は無かろう。無論どこぞの噺家と違って全国のあちこちにそんな場所があるわけではない。
 相変わらず祖父母は優しい。仕事も多く大変そうだが俺の前ではあまりそういった姿は見せない…俺などに対して勿体無い。…打ってて辛いぞ。
 叔父に電話をかける。この電話機もベル音で、通話以外に機能が無い懐かしい電話機だ。建て替える前の俺の家の電話も同じタイプだったが、もう十年以上も前の話だ。
 夕食にお呼ばれされることになった。叔父は…なんというか、叔父に限らないのだがうちの家系は凄い人がとにかく多い。亡くなった父方の祖父も、この叔父も小さいながら一社の社長。親父とその兄弟も道内の一流大学出が多く、どうしてそんな血筋から欠陥品の俺が出たのか分からない。
 で、叔父の料理なのだが、その腕も間違い無く一級品。以前カレーをご馳走になったことがあったが、何種類かのルウをブレンドしたカレーはそんじょそこらのファミレスなど問題にならない美味しさ、今まで食べたカレーの中では間違い無く最高だった。
 車中のうたた寝を除くと二十四時間以上寝てない計算になる。そんな俺を気遣ってか寝てくれ、と布団を敷いてくれたり。お言葉に甘えて俺は眠ることにした。

 祖父の声に目覚めればもう夜八時。銭湯に行く暇が無いぞ。叔父は歩いて二分ほどの距離にあるマンションに奥さんと住んでいる。
 ビールの乾杯で出迎えられる。俺の場合家族と飲む酒はこちらに限られるのだろう、普段一緒に住む家族と疎遠な俺では仕方ないことか。
 この日の料理も凄いものだった。生活時間帯のためかここ二年ほど食べたことの無い刺身――柔らかい烏賊が舌で溶けたような――、鯛の煮付け――滅多に食べる機会無いし――、炒め物――ただの炒め物ではない、様々な野菜と海老が絶妙な味付けで――、そして鯛の…――皮が素晴らしい…素晴らしい…何と言えばよいのやら言葉に困るほど――。
 大変なご馳走に与った。風呂にまで入れさせてもらって、上着に汗した肌をすっきりさせて戴いた。
 ただ一つ残念な話も聞いた。滞在している家の土地は借り物で住み続けるなら二年後に契約更新せねばならないと言うが、家はもう築五十年以上経過の木造、古くて相当ガタが来ている。住人の祖父母も年なのでもう手放して他所に移るというのだ。
 物心付く前からこの家に来ていた俺としては非常に寂しい。なまじ普段から住んでいたわけでは無いために、却って思い出が詰まっている家なのだ……。
 玄関に入った時の木の香り、障子で区切られた部屋、木の床の蓋を開ければ土間があり、トイレも手動の半水洗式。祖父の仕事場には伝統ある仕事での経過が積み重なり、家財も古いけど良いものばかり。
 狭いながらも思い出の量はとても多い。今これを打つノートPCの台は足踏みミシンだ。それすらも甘い、祖父の仕事場には骨董品クラスとも言えそうな手回しミシンが現役で頑張っている。
 …………時間とともに変わらないものなど無い。それは分かっているが、分かっているが………
  …………空気自体が懐かしさを感じる空間の喪失の知らせは、辛く悲しいものに変わりは無かった。


…ふう。一日目はこんな感じです。
小説風に書いていきます。口調も違いますので、斜体字で。

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