その場を静寂に陥れたのはただの一瞬。
 恐ろしいほどまでに正確に命中した弾、それは神野の側頭部から脳髄に熱く食い込んでいた。
 当人にこそその気は無かったが、そんなことはお構い無しに信頼を寄せてしまった桜子の目に映る、グラリと倒れる神野の体は…今この瞬間の心の拠り所の喪失に他ならなかった。
 「え……っ」
 起きた結果と一瞬見えた先程の友の顔、それが完全に乖離した今という時に果たして彼女が正気でいられるか。
 元より確固とは言えぬ精神を持たぬ桜子、その答えは問うまでも無く否。
 「……どうしたの………なんで倒れるの……お、起きて、よ…」
 理解を外れた神野の状態に彼の体を揺さぶる。ザッザッと草をかきわけて走り寄って来る足音にも気がつかず。
 「桜子ぉっ!」
 その声にようやく顔を上げる桜子、驚愕を貼り付けたまま。
 傷ついていない方の手を取り、朱鷺乃はしきりに『心配』していた。
 「大丈夫? 傷痛まない? ね、近くの民家でちゃんと手当てしよ」
 『心配』、し過ぎていた。
 「…どうしちゃったの、神野君」
 「え?」
 盲目になっていた。
 「神野君、動かないよ……」
 「だ、だってそりゃ」
 極限状態とは言え、全てが自分の気持ちで一杯だった。
 「何で、どうして…?」
 「そ、んなことより自分の傷の心配を――」
 その『心配』は、ただの押し付けであることに気がつかないまま。
 「どうして、どうしてっ…朱鷺乃、どうして神野君をこんなにしちゃったの…?」
 「………桜子?」
 桜子は神野の体を動かす……銃創からは零れる脳漿。
 ぱたっ、と草を濡らし、続いて降るは灰色の。
 「もう…一緒に行けないの?」
 気付く、その何とない気配から。
 お互い。
 「あ………」
 呆然とした朱鷺乃から、桜子はゆっくり後ずさる。
 「…どうして、撃ったの」
 その目からは感情が消えている。朱鷺乃が普段見ているような彼女はここにはいなかった。
 「…そんな、違っ」
 「神野君は私を守ってくれてたのに」
 その一言が最後の認識への抵抗をあっさり叩き潰した。
 …神野が? この不良が桜子を?
 「私っ桜子を、たすけようと」
 「信じてたのに!」
 聞き覚えのない大声は、さっきまでの存在認識の違いをさらにずれさせた。
 それは本能を刺激し――
 「!!」
 その腕を無意識のうちに上げさせた。
 次の瞬間には…それを目にして桜子は走り出していた。
 頭の中は真っ白だ。ただここの空気がその状況に置いて逃げることを最優先させていた。
 いやでも受け入れなくてはいけない死、それが自身へも襲い掛かってくる恐怖、それをもたらそうとしている友。
 彼女の中ではもう何もかもが滅茶苦茶だった。

 ふっと気付いて、上げかけた銃を持つ手を下ろしたのはそれから一分あまりも経ってからだった。
 ようやく会えた親友は、この何だかよく分からない不良に守られていた。
 知らずにそれを自分は勝手に傷つけられていると思い込んで――
 ……理解、した。


ここを見てる人は大抵ご存知かと思われますが、以前俺はバトロワの二次創作を書いてました。
…と言っても平和な部分が書きづらくてそこで停止してしまいましたが。
これはその話の先を部分的に書いてみたものです。
一応この先の展開も考えてはあるんですが、時間的に辛くなってしまいました。

深夜勤帰りにDAKARAなど買って、都合上長距離をてくてく歩いて帰る間に一口二口飲みました。
自宅に帰り着いて飲もうとして驚きました。氷混じりでしたから。
外側の部分が冷たい外気に触れて凍ってしまったんですね。
シャリシャリしてておいしかったです。

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