夜とは言えまだ九時過ぎの街は明るかった。
 行き交う人々、まぶしく点いた街灯、店のショーケースやネオンサイン。
 俺はそこから離れて、闇の入り口へと向かわなくちゃならない。

 「…またあのガキですぜ」
 「またか。いっぱしの探偵気取りかどうか知らないが」
 「周到過ぎませんか。毎回我々を追うように転学して来て嗅ぎ回ってくる…偶然にしては出来すぎではないかと」
 「ちっ、性格を気にせず早めに捕まえとくべきだったかもな。今からでもいい、他人にばれないようにして早急に殺せ」
 『ははっ』

 もう何度目か、例の廃屋。
 ササッと入り口の扉に近付き、ノブを……
 回したら扉が開いた。
 てことは……いや、脳波反応は扉越しには無かった。
 玄関には誰もいないようだ。だが、どのみち鍵が開いていたと言う事は、いつでも入って来いってことだろうな。
 それにしても結構広い家だ。そうでなければそんなに人数を詰めとけないだろうけど、これじゃ探すのも……!
 危険を感じて俺は身をとっさにその場からかわす。
 チャリィンッ!と鋭い音を立て俺のいた場所にナイフが転がった。
 上からの攻撃!?
 暗くてよく見えなかったが…天井が無く、代わりに剥き出しになった梁が敵の足場になっていたらしい。いや、お前ら忍者かよ。
 ともかく向こうの射程範囲に入っているなら話は別だ。こっちもすぐに反撃に入る。
 脳波反応へ…『俺に向かって一歩』。
 ずりっという音とともに人影が落ちてきた。さらに脳波を歪ませる。『俺を見て動かない』。
 うずくまっていた人影がぐあっと顔を上げて俺を見据えた。
 …行方不明になっているクラスメイトの一人、山際亮平だった。
 強力な睡眠薬かそれとも全身麻酔か、とにかく動けない状態にして体に乗り移ればその体で動けるらしい。
 この辺り、拉致者の誰かの体を使っていることは予想できたが…
 「ゆ…うま君…?」
 !!
 あ、そうか。喋れるよな。
 「亮平?」
 確かめるように聞いた。
 「助けに来て…くれたのか?」
 身体を小さく震わせながら、俺の問いには答えずに口が言葉を紡ぐ。
 …………
 俺が今度は問いに答えない、少し身を後ろへと。そして、掴む。
 「俺…俺怖くて…つい、それを」
 拾ったナイフを自分の胸元まで持ち上げた。
 「ごめん、ごめんよ…だから」
 「許すわけないだろう」
 弱気な言葉を続ける彼に、俺は否定を叩き付けた。
 「こんなものはどうでもいいんだ。
  分かるよな? …亮平じゃない誰かさんよォ!!」
 俺は思考にではなく、脳の根本、DNAクラスに向かって指令脳波を発生させる…『内部異分子の剥離』!!
 複雑な指令の構築に一瞬、その間に亮平の手が俺のナイフに跳んだ。
 だがもう間に合わない。本来の一人の人間の思考とは違った思考パターンは精神ごと追い出され、後には眠らされた元の人間が残るのみ。
 亮平を乗っ取っていた奴を滅ぼすなら今だ。
 そいつの精神の足取りを追いかけなくては。俺の身に付けられた霊界位相転移の能力は、この目にその足跡を視えさせた。
 そこへ、跳ぶ…!
 特定の願いの思考が身体の能力に作用し、空間にコンマ一秒に満たない時間霊界への裂け目を開いた。俺の肉体はそこに滑り込み、転移が完了。
 ……目の前には俺たちと変わらない年頃の、日本刀を手にした青年がいた。

 生前脱色していたのか髪は金色、鋭く冷たい光を放つ目、整った顔立ち。
 かなりの二枚目だが…
 「逃がすか」
 霊界に俺が存在したことに驚いたか、いきなり逃げ出した。
 死後霊体になったら外見ぐらい何とかなるが、あれはどうにもそのままらしい。…どうでもいいことだけど。
 「くそっ、………様っ」
 こいつは主犯の従者なのか?
 相手の人間関係にも興味はあったけど、そんなこと言ってられない。
 ここでは肉体が存在しないために俺の攻撃は現実で言う物理ダメージと化す。
 ならば指令を組み上げる必要の無い必殺の脳波操作…これで叩く!
 「がっ!?」
 組み上げるものが無い為に全くの準備時間無し。俺が攻撃を決めた瞬間に彼の霊体が傷を負う。
 まだまだ…! 破壊の因子は彼そのもの、それを俺が滅茶苦茶に暴走させる!
 「…………ッ!!」
 ズタズタに身が引き裂かれる。やはり生前のイメージが強いのか、服がそこここから破れ血が噴き出す。
 『クタバレ』
 破壊のイメージを最大限に働かせた。とどめだ…
 彼の身が袈裟切りに切り裂かれ、派手に血を吐いた。それ以上のイメージは無いのか、切れた身体の断面はただ赤白いだけで内臓が出てくるなどと言う事は無かった。
 二つに分かれた体は、地(のようなもの)に倒れ伏す前に霞となって消えた。

 ………まず、一人………


終わらないってばのよ!(大汗
俺は文章を短くまとめるということが本当に苦手です。

天気予報が当たりません。
晴れろよ。

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