次の日のこと。
 「おふぁよ〜お」
 いつも通りに眠い目をこすりながら居間に出ると、父が新聞を凝視していた。
 「おはよう梨乃、記事見てみろ。また出たらしいぞ」
 うちでは地方紙を取ってるため、何かとローカルな話題が出ることが多い。
 だからきっと例の変態のことだろう、そう思ったんだけど…
 そう、確かにその変態のことだったんだけど。
 「…え」
 今回の被害女性は中学生とのこと。その子はひどく心に傷を負ってしまったって。
 そこまで精神的に参らされるなんて、一体全体何をされたんだろう。
 …………
 いけないいけない。昨日考えないって決めたばかりじゃない。
 そう思ったら、後はいつも通りの朝だった。
 トイレ済ませて顔を洗って、ご飯食べて身だしなみを整えて、あとはカバン引っつかんで「行って来ます」。
 母にも出際に気をつけるよう言われたけど、適当に返事しておいた。

 学校でも午前中は例の話がのぼってた。でも段々減っていき、結局いつも通りの日常に戻ってた。
 しょうがない。当事者じゃないわたしたちにしてみれば、近くで起こってたとしても所詮人事には違いないのだ。

 …そしてコトはわたしたちが直面する。

 今日はわたしのいるグループに掃除当番が周って来てた。
 わたしも美佳も運動部のように積極的に活動する部活に入ってないため授業が終わるとすぐに帰るんだけど、それで美佳だけ先に帰ることになった。
 授業終了のSHR前に、美佳が帰りにちょっと店に寄るっていうから掃除が終わってからわたしも追いつくことにしたんだけど…
 ま、大丈夫だよね。
 なんてタカをくくってた。

 美佳がその店に行く道順は決まってたから、その道を走っていけばひょっとして追いつけるかも、なんて思って全力ダッシュ。
 思ったとおりに美佳はのんびり歩いてたみたいで、とある角を曲がると80メートルくらい離れたところに見つけることができた。
 …トレンチコートを着て、彼女の進行路を塞ぐ男も一緒に。

 嘘っ…マジ?
 まさかこんな真っ昼間から出くわすとは思ってなかったから完全に不意をつかれてしまった。
 この通りはわたしと美佳が近道で使ってる小道、普段から人通りは少ない。そのせいで変態に遭遇してしまったのかも知れないな。
 思わずわたしは飛び出そうとして、即刻思い直して自分を何とか引き止められた。
 そう、これはチャンスだ。変態を捕まえる絶好のチャンス。
 ………待て。あれ、本当に例の変態なんだろうか。
 別に例のでなくても変態だったら即通報だけど、変態じゃなかったら意味も無い騒ぎになってしまう。
 美佳にはすごく悪いと思うけど…少し様子を見なくちゃ。本当に例の犯人だったら、すぐ通報するからね。
 とか思ってたら早速。何かで見たみたいに、男はコートの前を広げてた。美佳が驚いて後ずさってた。…変態確定。
 スカートのポケットに手を突っ込んで、取り出だしたるは乙女のたしなみケータイ電話。
 もちろんかける先は決まってる。
 1、1、0。
 様子を見ながら…逐一報こ……く………
 美佳がこっちに向かって逃げ出してきた。あ、わたしに気付いた! ……変態にまで気付かれたっぽいーー! っていうか前開けたまんま走ってきてる! 怖過ぎ!! しかもアレがブラブラしてる! き、キモイーーー!!
 どうやらわたしが通報してることまでは気付いてないみたい、わたしは手で美佳に「こっち」ってサインを送った。
 同時にわたしも走り出す。美佳に向かってではなく、逆に。
 『どうしました!?』
 あ、警察さん状況把握できてない!
 「こっちに気付かれました、今追っかけられてます」
 『お友達は無事ですか!?』
 「わたしに向かわせてます、今のところ無事です」
 急いで次の曲がり角へ。美佳がこっちに走ってきてる、変態男はまだ向こうの角を曲がってこない。
 再び美佳にサイン。彼女、目いいから見えるよね。
 ケータイが男に見えたら逃げられるだろうから、見せないようにしないといけない…
 その状態で、警察さんに現在地とかを伝えなくちゃいけない。
 これ、ハンデあり過ぎじゃないかなあ……

 同じ区画を二周ぐらいしたころ、変態は逃げてしまったらしく姿が見えなくなってしまった。
 「美佳エル、大丈夫? なんかされなかった?」
 走りずくめでへろへろになった美佳に駆け寄る。変態の行方も気になるけど、美佳の事のほうがよっぽど大事。
 「……ぜえ、ぜえ………疲れました」
 すごく息が切れてる。あまり体育の成績もいい方じゃないし、しょうがないことだけど。
 「ごめんね、すぐ助けに出なくって。通報しといたよ」
 「はい、これで……ぜえ、ぜえ……良かったです」
 「ううん、まだ変態捕まってない…あ」
 そっか。妹の件があるから、それでも安心してるんだ。これで済んだだけ良かった、って。
 「疲れてると思うけど、早く大通りに出たほうがいいよ。また来るかも知れないから」
 「はい…」
 くたくたに疲れてる美佳を連れて急がないといけないのは、ちょっと厳しいかも…
 はて、何か忘れてるような。
 ……忘れた頃に、回る赤色灯がやって来た。

 わたしが思ったよりも力を入れてたのか、どうやら通報した場所を囲むように人員配備したらしく、なんと変態は無事に捕まったとのこと。
 これだから警察は市民の味方だ、なんて調子の良いこと考えちゃったり。
 アレを見せられた美佳も、軽いショックはあったものの大した後遺症は無かったみたい。帰るときも、普段通りにバイバイを言えた。

 ………ところが、これでいろいろ訊かれたりするだけで終わりじゃなかった。
 次の日学校に奈美の姿が見えなかったのだ。
 気になってメールするも、返事がこない。ただの風邪とかなら絶対に返信が来るのに、これはおかしい。
 音声通話してみた。だけど何度のコール音が鳴っても、一向に出る気配が無い。
 これが何日も続いたので皆が気にするようになった。
 担任が言うには、「原因はわからないが、とにかく登校拒否」とのこと…
 あの日まで彼女に変わりは無かったし、警察を通した変態男の話ではあの日遭ったのは美佳が初めてらしいし…
 …なんでそんなことを聞いたかは置いといて。
 その後彼女は退学してしまった。

 わたしたちが知ることの無かった理由。
 奈美は初彼の一面だけに舞い上がっていた。
 そして彼女の知らなかった他の異常な一面が、奈美と彼女の初彼を引き離した。
 即ち、変態露出狂男は、奈美の初彼その人だったということだ。


ありがちですな。…ホントかなあ(苦笑

例の変態がとうとうお縄についたので、そんな感じの短編になりました。
警察の方で車ナンバーなどの情報をたどって、当人と見た人が認めたそうです。
ようやく一件落着。
……昨日、露出狂の心理を調べた俺からすれば微妙な気分ですが……
性癖が捕まるようなものだったら悲惨だな、と思わずにはいられません。

今日の検索ワード:露出狂 ホーム
某大学法人からのアクセスだそうです。心理関連調査でしょうか。
「ホーム」というのが何を差すのか不明ですが、この検索ワードで一番上に俺日記が出てきちゃうのがせつない。

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