「で、結局何がやりたいのかな?」
 余裕ぶっこきやがって…クソが。
 「何度も言わせるな! 俺を元の体に戻しやがれってことだ!」
 直ったばかりの飾り柱を怒りに任せて殴り壊しながら俺は叫んだ。
 「言うたび言うたび今の体が便利だのもう慣れてきてるだの、そんな慰めみてえな言葉はいらねえってんだよ!
  さっさと人間に戻して、適当な普通の世界にでも放り出してくれればそれでいいんだ!」
 「君の頼みには一つずつの無理と不条理がある」
 長椅子に戻りながら創始者が呟いた。あれまで一緒に直ってんのか。
 「不条理は前にも言った、君の魂を拾ったこちらに対する礼儀の欠如」
 ………ちっ。いちいちうるせえ……
 「無理は、完全な君の元の体を用意すると言う事だ」
 はぁ?
 「人の魂拾い集めれるのが何でそんなこともできねえんだよ」
 そんくらいなんとかなんねえのかよ。
 「そんなこと…と言うがな、命というものはそんな単純な物ではない。
  例え魂が存在してもそれを命の無い体に入れても何ら意味は無い。
  勘違いしているようだが、魂≠命なのだよ」
 何ぃ…
 「だからカオス・ウォーリーズメンバーの体は命あるものとは違い、生きているものとしての生体活動は行っていない。食事・睡眠が不要なのはそういうことだし、摂食した物の消化ができるのも擬似生体活動だけは行っているからだ。
  最も、命という極めて打たれ弱い動力源が根底にある体では厳しい任務をこなすことは到底不可能ということもあるがな」
 「じゃあ今の俺とかの体はどうして動けるんだよ」
 「通常の生物の体は生体活動を命によって行っている。そこが軸になって魂、体をそれぞれ繋いでいるのだ。
  君たちの場合は命の要素が存在せず、魂と体がダイレクトに接続されているわけだ。
  但し、体から魂へのフィードバックは行われない。ただでさえ丈夫だが、万一破壊されても魂は全く無事なので、再生可能というわけだ」
 ……くそ…ややこしくなって来やがった。
 「話戻そうか。俺の元の体が用意できねえってのはどういう理屈だよ」
 これが訊きたかったんだよ。
 「人間の体に戻るなら、命が必要だ。だがカオス・ウォーリーズの科学力を持ってしても、命の細かい要素が分からない部分が多いのだ」
 「だから何だってんだよ。いちいち遠回りすんじゃねえ」
 「まあ聞け。人間が輸血する際、血液型が合っている必要があるのは知っているな?
  それと同じ事で、命と魂、体と命にはそれぞれ適正というものがあるわけだ。
  これが血液型などとは比較にならないほど精密な物でな。本当に『そのもの』でないと拒否反応を起こしてしまうのだ」
 …!
 「わかるな? お前の体は惑星爆発によって消滅した。つまりお前の魂に合う命を持った体はもう後にも先にも存在しないのだよ」
 ………バカな…いや。
 「ちょっと待て、この組織からなら俺の居た世界の別の時間軸に行けるんだよな? そっから俺の肉体をもらってくることができねえのかよ!」
 「お前の性格からして、人に自分の体を提供すると思うか?」
 ???
 いきなり何言ってんだ?
 「つまり別の時間軸に存在してようがお前はお前ということだ。性格はお前と同じ、そういう奴が人身御供などするわけなかろう」
 ……ちっ……そうだ!
 「じゃあ、消滅直前の俺の肉体を持ってくることは…」
 「お前の場合は肉体の消滅によって命が消えていて、魂はその後に流れ出ていた。持ってきても瀕死のお前が一人増えるだけだ」
 …………無理、って……ことかよ。
 「ちなみにそうでなくとも、時間軸、世界は非常に微妙なバランスで存在していてな、ほんの僅かな違いだけでもそれは別扱いされ新しい時間軸が生まれてしまう。
  我々ができるからといっても、無駄にそうならないために私が任務を厳選しているのだ。余分なことで時間軸を枝分かれさせるわけにはいかない。
  時の樹形図は、例え自然な状態であったとしても、正直私ですら想像を絶する形をしているのだ」

 世界のあり方やら何やら。
 そんなややこしいことは俺は理解できないし、したくもねえ。
 だけど、元の体には二度と戻れない。それだけは納得できた。
 「じゃ、今度こそもう大丈夫だよね」
 「ああ、頼むぜ」
 再び俺とディルアスは地下の電脳世界の入り口(という言い方もおかしいかも知れないが、これ以外に呼び方がわかんねえ)にやってきた。
 ユニットを身に付け、電撃。
 気が付けばまたあの何も無い大地に俺は立っていた。
 『インターネットワークに行く前に、幾つか必須のことを覚えてもらわないと危ないよ。ま、普通にやってることと大して変わらないけど』
 あの体で普通にできること。全然普通じゃないんだが、それができなければ下手すれば生き残れる保証も無え。
 この電脳世界、何でも体無しに魂が直接表に出ている状態だとか。つまりあんな体が元でも、やられたりすれば完全に消滅してしまうらしい。
 最初から完璧な状態にしないと死もあり得るっつうわけだ。

 俺に与えられる任務とやらは、ネットワーク上のみで行われることになった。悔しいがあの体の力で無いと遂行できないレベルのものもあるらしい。
 …もう、いいんだけどな。

 『じゃあ、最後に「リンク」の方法を教えるよ。これが無いと他所のネットワークに行くことができないからね』
 電子の世界での歩き方や戦い方を一通り覚え、ようやく旅に出れることになった。
 これからは任務が与えられるまで、電脳世界をぶらぶらしてていいということだ。
 …一番の目的である、世界をぶらつくということができたから、それでいいんじゃねえの。
 妥協の声が少し腹立たしい。それでもできねえことはできねえ。
 だから…………

 俺が今歩く道は、果てしない電子の世界。
 日々新たな場が構築されるこの世界は、何十年、何百年かけても歩き尽くすことは本当に無理ってもんだ。
 いつも目にする新しい風景、そして。
 「ブレイクラッシュ!」
 ガガガガガガガガッ!!
 無数の震動する空気弾が異形の群れに炸裂した。
 「まだだあ! パージ・ストライカー!」
 プログラム破壊の呪を今の戦斧、カオスハルバードにかけて俺は走る。
 「でやああああああっ!!」
 気合とともに、薙ぐ、薙ぐ!
 「キピコパピパピピピイ―――」
 分解され、電子音とともに消滅していくウィルス。
 人の管理が届かない所のバグ、日々作られるウィルスを消して回りつつ、俺の気ままな旅はいつまでも続いていた。

              ――――ティス・ゲライア


半ば無理矢理にこれにてティス編、完了です。
…本当に雄摩と同じ長さになってしまいました。
主人公だからなるべくきっちりやろうと思ってた雄摩編と同じ…
……こいつこんなにキャラ濃かったっけ……
期間の短さで勘弁してください(意味不明
残り三人です。

アクセス解析…
ちょっと書いただけなのに、何故に皆さん「邪神モッコス」で来るんでしょうか(大汗
…カムバックCOS−MOS…

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